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ノートの外側:『ツバメ号とアマゾン号』

 
ツバメ号とアマゾン号 (アーサー・ランサム全集 1)
著:アーサー・ランサム
訳:岩田 欣三、 神宮 輝夫
 
出版:岩波書店 ISBN:4-00-115031-X
発行年月:1979 利用対象:小学生   中学生 

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中の人が小学生高学年〜高校生だった頃、というのは今に比べると世の中も相当に「のどか」だったのでした。その期間にかけての中の人はいわゆる「チャリンコ少年」であったのでして、自転車屋さんにお願いしてスペシャルオーダーで(笑)作ってもらった「安くて丈夫」なレーサータイプの自転車にテントだ寝袋だと詰め込んだ荷物を載っけて文無しでふらふら旅行を繰り返してました(もう20年以上も昔の話です)。
 
今だと迂闊なことしてるとすぐ「家出少年」とかいう名目で通報されそうですが、当時は例えば目的地まで行き着けなくて手近な公園でテント張ったりしていても怒られたりもしませんでしたし、それどころか近所のおばあさんがおにぎりを差し入れてくれたりもしたものです。
 
そういった「放浪癖」というのがなにで発露するのか、というのも色々あるでしょうが(大概は親の影響が強い…笑)、中の人の場合は決定的な役割を果たしたひとつの書物(シリーズですが)がありました。
 
「ツバメ号とアマゾン号」が、それ。この巻に始まる堂々12冊の一連のシリーズですね。一般に「アーサー・ランサムシリーズ(ランサム・サーガ)」として知られています。
 
大概は「ツバメ号」のクルーであるところのジョン・スーザン・ティティ・ロジャの4人兄妹(ウォーカー兄妹)があちらこちらで小帆船で航海をし、キャンプしたり探検したり、という感じでお話は進みます。時々「アマゾン号」のクルーであるナンシイ・ペギイ姉妹(ブラケット姉妹)や、また違った兄妹達が主役な巻もあります。
 
いわばそれだけなんですが、この「それだけ」が延々続くというのがすごい。お読みになると分かりますが、1巻1巻が相当の分量です。大人でもさっくりとは読めない。その分量が繰り返しでなく毎巻毎巻わくわくする内容を持って語られていく。子供達の冒険がどれだけ広いレンジで展開できるのかが詰まっているのです。
 
もしあなたが自分の子供にアウトドアの楽しさを教えたかったら、へんてこなスクールに参加したりするよりもこのシリーズを与えて一緒に読むのが良い。きっと子供達はいても立ってもいられなくなってすぐに暴れだすでしょう(笑)。
 
では、ちょっとだけ、その「ツバメ号とアマゾン号」のさわりを紹介しておきましょう。
 
 
舞台となるのは20世紀初頭のイングランド北部のある湖。夏の休暇でこの地に赴いていたウォーカー家の兄妹達は、ようやく遠い地にいる父親からの許しを受けて、子供達だけで小帆船「ツバメ号」を操り、湖の「探検」に出発する許しをもらいます。
 
目指すは滞在先の近くの岬から遠くに望むだけだった「無人島(後のヤマネコ島)」。子供達はお母さんに作ってもらったテントをはじめ、寝床にする干し草袋や調理道具一式、そしてなにより…。
 
ジョンは学校でご褒美にもらった晴雨計をぬれないよう大事にブリキの缶にしまい、スーザンはみんながひもじい思いをしないよう食料に気を配り、ティティはお母さんに手伝ってもらって「ツバメ号」に掲げるツバメの紋章の入った三角旗をこしらえ、ロジャはジョンとスーザンの手伝いをしながら爆発しそうなわくわく感を満載して、小さなツバメ号に乗り込みます。
 
やがてツバメ号が無人島(ヤマネコ島)に近づき、子供達は島へ上陸します。島ではキャンプをしながら探検をし、湖上からのアプローチでは見つけられなかった「秘密の入り江」を発見したり、泳ぎの練習をしたり、釣りをしたり。
 
そんなのどかな日々が続いた後、ある日湖の彼方から一隻の小帆船が姿を現します。そこに乗っていたのは彼らと同じくらいの二人の女の子。その小帆船はジョン達の島に見せつける様に自らの船の帆先に「ドクロの旗」を掲げ、湖の奥へ走り去るのでした。こうして「女海賊」を自称するナンシイ&ペギイのブラケット姉妹と出会ったウォーカー兄妹達。彼らの「探検」の日々は「冒険」の日々へと広がっていき…。
 
とまあこんな感じのお話が続いていきます。この湖そのものにしたところで別段「秘境」というわけではありませんで、周囲には屋形船があったり大きな集落もあったりとごく普通の避暑地なんですが、子供達はそんなのは「でたらめで間違ってつけられた名前の海図(ジョン談)」ということで自分たちで次々と地図を塗り替えていきます。
 
特に中の人が子供の頃「燃え」たのは8巻の「ひみつの海」。とある湖沼地帯が舞台となりますが、ここで子供達は大雑把な「白地図」を与えられ、「測量」をしながらそれを正確にしていったり、持ち前の想像力で各地に「名前」を与えたりしながら「自分たちの地図」を完成させていきます。
 
もっとも「子供達の地図」というのはこれ以前、この1巻からも出色でして、今でも覚えているのが2巻をあけた時のことです(もう30年近くも前のことですが…笑)。1巻に載っていた地図が「広がっている!」。お話ごとにこの地図は広がっていくんだ!と思った時のコーフンたるや…(笑)。
 
2巻の中にはこんなくだりもありますね。その地域の「最高峰」子供達の「カンチェンジュンガ」に登頂したときの模様です。
 
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ここには、このシリーズが教えてくれる一番大切なことが書かれています。ただ純粋に「つぎになにが見えるか」が知りたかったあの頃。物語の「結末」なんか要らなかったあの頃。そういったものを今これを読む大人達にも教えてくれることでしょう。
 

 
さて、ということでこのコーナーの巻頭を飾りました「ツバメ号とアマゾン号」でした。んが、最近の動向はどーなのかしらと書店の児童文学のコーナーを覗いてみますと…どこにも置いてねえ(TΔT)。文庫ものはあれこれ揃っているようですが、ハードカバーのものはハリーポッターを中心にファンタジーものばかり。
 
ダメです、これ。ダメダメです。
無論ファンタジーというのもよろしいのですが、「それだけ」というのはダメです。選択肢が一本道でどーすんですか。最近の子供は本を読まないとかなんとか言いますが、書店がこれでは当たり前です。
 
大体文庫ものでバリエーションを確保するというのは根本的にダメですよ?子供というのは「でっかい本」にわくわくするのです。自分の小さい手に余るでっかい本の造作がまず自分の想像を超える世界の存在を予感させるのです。
 
時はあたかも夏休み前(笑)。大変良いチャンスですので、本屋さんはランサムシリーズをがっちり仕入れて「夏休みの一冊」コーナーを設けましょう。親御さんはこのお話に出てくる簡単なテント(シーツをロープで吊ったら良い)を部屋に張ってあげましょう(無論キャンプに行けるなら行くのが良いですが)。きっと子供達はロジャになりきり、あるいはティティになりきり、まるで違う見え方を始める世界に興奮するでしょう。
 

 

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