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調律A・調律B

まあ良い。おのし、何が聞きたい。
ほほっ。分かっておる、分かっておる。人とはとかく知りたがるものじゃ。

じゃが良いのかの?
我ら龍人がかつて「しくじった」のはその「知」によるのかもしれんのじゃぞ? 

調律A
 
 
『竜の横溢』の名で知られるモンスターの大発生は、その詳細がほとんど不明である。人の里の近くでそれが起きればその里は壊滅を免れず、詳細な記録は残らない。人知れぬ大地で起こればこれもまた知られる事がない。
 
しかしまた、かつてその名を馳せた故ジョン・アーサー卿が残した未完の研究が『竜の横溢』に関するものであった。彼はその伝承を広く収集するとともに、その地を詳細に検討し、その記述にはかなり核心に肉薄していたのではないか、と思わせるものもある。が、彼はその核心をまとめる事なく姿を消してしまった。今私は、故アーサー卿以降の事象の検討を含め、彼の足跡をたどり、その先へ光を照らそうと思う。
 
23年前にメタペタットの村を襲った『竜の横溢』は、ハンターギルドがその存在を把握して以降初めて対抗策が功を奏した事例だった。
しかし、その際もその「原因」を突き止めるには至らなかった。最近になって拓かれつつある、メタペ湿密林のさらに奥に広がる「樹海」と仮称されている地帯にその因を求める者もいるが、これからの調査をも待たねば何とも言えない。
 
もっとも、アーサー卿の研究にある各地に残る『竜の横溢』が引き起こす現象の伝承と、メタペタットにおける現象の観察結果はほとんど同一している。モンスターの凶暴化、強靭化、大発生。これが1〜数年の間周期的に強まり、また弱まり、続く。その後、やがて一部を除いて常態へと戻っていく様だ。
 
余談であるがこの「一部」、常態に戻らず、モンスターが異様な巨躯や強靭さをその後も保ちつづけてしまった現象が、おそらくGクラスと呼称される狩り場の存在である。
従来Gクラスはハンターとの抗争を繰り返しながら、それを生き延びていったモンスター達が強個体の発生を促した結果生じる、言われてきた。しかし、メタペタットにおける『竜の横溢』以降、それ以前と隔絶した強度のモンスターの出現がその地に当たり前に見られる様になった経緯から見て、Gクラスと『竜の横溢』は密接な関係があると考えざるを得ない。
 
これは、故アーサー卿の残した『竜の横溢』が起こったとの伝承のある地域の調査とGクラス指定を受ける狩り場の位置がかなり一致している事からも、十分考察してゆく価値のある問題であると言えよう。
 
いずれにせよ、この現象の最も端的な特徴である「生命の暴走」がなぜ起こるのか。そこに鍵はあるのだろうと思う。そしてそれは、各地に伝わるもうひとつの伝承『生命の樹』に関するそれを思い起こさせる。では、次項ではその『生命の樹』に関してしばし考察を進めたいと思う。
 
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以下公式記録には転載不可の事
 
上に述べたメタペタットの『竜の横溢』の前にその現象が確認されるのは、36年前のロルフ村におけるそれである。独特な文化と優秀なハンター達を抱えていたこの村は、その際に壊滅してしまった。
しかし、ただ一人その災厄を生き延びた者がいる。
 
カエラ・トレミア。
 
ロルフ村の首家にして、古代からの様式を受け継ぐ古家とされていたトレミア一族の直系である。彼女はその災厄にあたって「龍殺しの徴」を発現させた。
やがて彼女は伝説に語られてきた「黒龍」の降臨を最終的に誅滅することになる。
 
その『黒の継承者』が私の妻である。
 
そして私は、われわれの娘ヴィクトリアに「その徴」が現れたとの報告を受けた。
 
『竜の横溢』『龍殺しの徴』『黒龍』。
 
私がこの研究に今、全力を注ごうというのは私の継ぐ名によるものばかりではない。ひとりの子の親として、私にはそこに「行き着かねば」ならない責務がある。
 
アーサー卿の秘鍵。その謎を解く事が、わが娘を待ち受ける運命が切り開かれていく力となる事を祈る。
 

ジョン・S・アーサーの手記より

 

 

調律B

 
ほほっ。このような所へよく来たの、人の子よ。
 
人の身でありながら龍人の隠形の境をいかにして越された。
 
ほう、アイルーがの。それはなかなかに興味深い事よな。
 
まあ良い。おのし、何が聞きたい。
 
ほほっ。分かっておる、分かっておる。人とはとかく知りたがるものじゃ。
 
じゃが良いのかの?
我ら龍人がかつて「しくじった」のはその「知」によるのかもしれんのじゃぞ?
 
なに、『竜の横溢』とな。ほう、つい先だってここに現れた人の子も同じ事を聞いてきよったな。
 
む、おのしにとっては先だってではないか。人の尺度では「昔」になりよるのかの。おのしはまだ生まれていもせんかったじゃろうからの。
 
おのしは「流の横溢」というものを耳にした事があるかの?「竜」ではない、「流」じゃ。
 
おのしも同じような土・同じような大気に取り囲まれているにもかかわらず、片や豊潤な植生に恵まれている土地があれば、まるで荒れ野原である土地もある、という事があるのを知っておろう。
 
これが「流」の成せる技でな。「流」とは大地の下を深く浅く流れており、人の子の一生で見ればその深浅は一定であろうが、より長い目で見ればそれは浮沈を繰り返しているのじゃ。
 
つまりこの「流」が浅く流れ、大地にその影響大なる地は繁茂し、深く沈み大地にその影響のとどかぬ所は枯れる。そういう事じゃな。
 
して「流の横溢」じゃが、これはこの「流」が地表にまで流れ出てしまうことを言う。
 
こうなればその地の生命は溢れ出ん勢いとなるじゃろうな。
直接的な奔流が収まって後もしばらくの間はその地の生き物は強うなっとるじゃろうの。
 
それをおのしら人は『竜の横溢』と呼んだんじゃろう。
 
そもそも大本では流・竜・龍は同じ言葉での。
…ふむ、これはまだちとおのしには早いかの。
 
いずれ見聞を広め、またこのような機会を持てばそれも知れてこよう。
 
この度はこれまでじゃ。
 
ま、おのしも一服せんかの。いや、この煙草は人にはいかんのじゃったかの。もとは同じものであったのに、不思議な事だの。
 

 
その龍人(彼らは「リュウヒト」と発音する)は、いたずらの様に謎をかけると(もう行け)という顔をした。
リオは礼を述べ、その山菜爺と呼ばれている竜人族の隠れ家を後にした。
 

『調律A・調律B』了
つづく
 

 

諸注意
 
・ジョン・アーサー
かつての王立古生物書士隊筆頭書士。西シュレイド地方生物樹形図を著した研究者。同時に優秀なハンターでした。しかし、調査中に杳として行方が知れなくなっちゃったのです(ここまで公式設定)。
(ここから超大胆な作中設定…笑)ビッケの父、ジョン・S・アーサーはこの故アーサー卿の直系と思われる人物。このお話より2年前、西シュレイド王国王家からの勅命を受け、妻カエラ共々首都ヴェルドに赴く。
 
・狩り場について
作中では狩り場はゲーム中の何十倍もあるのです。一口に密林と言ってもその実体は広大で、「密林1」「密林2」「密林3」…といくつもの密林フィールドがあるわけです。メタペ湿密林にしてもメタペタットを入り口にいくつものフィールドがあり、『竜の横溢』以降Gクラス指定を受けたのもそのごく一部。
ゲーム内ではそのような幾多の「密林」が抽象化されてひとつの「密林マップ」として表現されている、という立場を取ります。
 
・Gクラス
『竜の横溢』によるGクラスの発生は、勿論作中オリジナルの解釈です。でもね?ハンターとの戦いを生き抜いて云々という公式設定がどーも気に入らないんですよね(笑)。そんな2〜3世代でそんなんなるかよ、みたいな。
 
・生命の樹
ベタなもんが出てきましたが、これは「大全」から。いやもう結構繰り返し載ってますから。中の人のせいじゃねえですから(笑)。
「ヒヨス」の名を使うかどうかは…あ゛ー!どーしたもんだかッ!
 
・龍殺しの徴
これまたベタな名称になっちゃいましたが、「龍殺しの実」というのがある以上しょうがねえんです。中の人が頭をひねるのをさぼったわけじゃねえんです(笑)。お話の冒頭、ビッケが気を失った「あれ」ですね。
 
・そして私は、われわれの娘ヴィクトリアに「その徴」が…
とーちゃんあせりまくってます(笑)。
 
・ほう、アイルーがの
リオはアイルーと超仲良しです。
 
・つい先だってここに現れた人の子
故アーサー卿の事です。竜人族の寿命って一体…。
 
・流の横溢
東洋において大地のエネルギー(気)の流れる経路の事を「龍脈」と言い、インドにおいては「ナーガ(大蛇)」と言います。
 
・おのしも一服せんかの
竜人族の好む「黒タバコ」。
「原料不明。人間が吸うとたちどころに肺をやられてしまう」と「大全」にあります。
 
・龍人(リュウヒト)
作中設定。「とある伝承」を継いでいる竜人族達は自らをこう呼びます。

 

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